11/24(金) 7:30配信

毎日新聞

強制帰国させられそうになった際に逃げ出した元技能実習生のチャンさん=神戸市で、川平愛撮影
◇戻れない理由があったチャンさん

「絶対、帰りたくない」。ベトナムから来日した外国人技能実習生のチャン・バン・ハーさん(25)は昨年11月、実習の受け入れ団体の職員に連れてこられた岡山空港で泣きわめいた。「新しい職場に行く」と言われていたのに突然、帰国を命じられ、ベトナム語と中国語、片言の日本語で抗議して何とか逃げ出した。

戻れない理由があった。銀行と高利貸から計約100万円を借金し、母国の送り出し団体に手続き料(約75万円)と保証金(約25万円)を納めて来日したが、低賃金で返済は滞っていたからだ。

この4カ月前、広島市の食堂運営会社に受け入れられ、大阪府内の官公庁の食堂に派遣された。ただ、仕事は少なく手取りは月約1万5000円で、母国のレストランで働くよりも待遇は悪かった。

「1日だけ出張に行くぞ」と言われ、急きょ向かった長崎県内の高校の寮で、明け方から寮生の朝食を準備する勤務が2カ月続いた。ビジネスホテルから職場に通わされ、十数万円の給与から諸経費が引かれ、手取りは6万円ほどだった。

ベトナムのハロン市出身。シングルマザーで長男(7)を実家に残し、学費を稼ごうと来日。元炭鉱労働者の父親は体が弱く働けない。市場で働く母親のアルバイト代でチャンさんの長男の学費を賄っている。

借金の不安で押しつぶされそうになった。待遇の改善を求め、受け入れ団体と実習先を支援する組織に電話したが、帰国させられそうになったのは、その直後だった。「助けを求めたのになぜ帰国なのか。実習生をバカにするな」と悔しさを隠せない。

近年は中国からの実習生は減り、ベトナムやミャンマーなどからの来日が増えている。四国地方の縫製工場で実習していたミャンマーの30代の女性は残業代が時給400円。セクハラ行為も受け、職場から姿を消したが、失踪を理由に母国の家族が保証金を含めた計約100万円の賠償を求められている。

賃金不払いなどが問題化し、実習制度の適正化法が施行されたが、来日時に多額の借金を抱える実習生に職場を移る自由はない。西日本で実習する別のベトナム人女性は、受け入れ団体幹部の仕事上の接待に同席させられたこともある。この女性も約100万円の来日費用を払っており、「仕事を失うのが怖くて文句は言えなかった」と漏らした。

実習生にとって重い負担となる来日費用は、新法も規制は難しい。手続き料の報告は義務付けられたが高額かの基準はない。保証金は2010年から禁止されているが、徴収されるケースが後を絶たない。来日費用への対応は、相手国に任せるしかないのが現状だ。

チャンさんは支援者を頼り、35万円の追加の給与を受け取ることで実習先と和解したが、来日時の借金返済のめどは立たない。「もっと日本で働かないと」。母国に残した長男の将来を案じて泣くが、就労できない短期ビザに切り替わり、帰国の時が迫っている。

◇外国人技能実習制度

途上国の外国人が来日して建設や食料品・衣服製造など77職種で技能を学ぶ制度。日本の技能を海外に伝える国際貢献が目的で、1993年に始まった。主に海外の送り出し団体が実習生を現地で募集し、日本の受け入れ団体が実習先にあっせんする。劣悪な労働を強いるケースが後を絶たず、受け入れ団体や実習先への監督を強化する実習制度の適正化法が1日に施行された。国は監督権限を持つ外国人技能実習機構を新設し、機構は受け入れ団体1971カ所(昨年末時点)と実習先4万473カ所(同)を実地検査する方針。実習先などが優良認定されれば、最長3年だった実習生の在留期間は5年に延長され、受け入れ枠も増える。